「嘘だ」

「きっと嘘だ」

「嘘に違いないんだ」

 何度も、何度も、何度も、カービィはうなだれたまま、ぽつりぽつりと呟く、

「カービィ、気持ちは分かるが、ちゃんと事実は受け止めろよ」
 リックはそう言って、自分の背後に目をやる。
 漆黒の空が、どこまでもどこまでも続いている。
 明らかに異常な光景だった。
「大王が」
 リックが呟くように言う。
「あの大王が、虹の島々から虹を消した。そんで、空をあんな風にしちまったらしいぜ?」
「信じないよ、僕は」
 カービィが静かに――しかし、震えながら言う。
「……ま、落ち着いたら声、かけてくれよ。オイラたち、外で待ってるから」
 リックはそう言ってカービィの家の外へと出て行く。
「嘘でしょ……?」
 カービィはまた小さく呟いて、サイドテーブルの上に飾られた写真立てに目をやる。

「だって、こないだまで……」

 そう、ついこの間までは、とても穏やかだったのに。

 

<真実の鏡はまさにその手に>

 

「デッデデー!」
 カービィは扉の隙間からひょっこりと顔を出した。
「カービィか。なんか久々だな、お前が城に来るの」
 デデデ大王は眺めていた本から顔をあげる。
「えへへー、ちょっと洞窟で迷子になっちゃっててさ」
 カービィは苦笑しながら大王に歩み寄る。
「洞窟?」
「うん、マジルテって洞窟。知らないの?」
「マジルテって……お前、あんな辺鄙な場所に何しに行ってたんだ?」
「いや、探検しようと思ったらうっかり落っこちちゃって」
 カービィはそう言って舌をぺろりと出してから
「そんでね、僕たっくさんお宝を見つけたの! ほらほら、見て!」
 と、一枚の鏡を取り出した。
「……なんだそれ」
「んっとね、シミラが言うには『真実の鏡』っていうお宝らしいよ! ね、ね、すごく綺麗でしょ?」
 カービィがはしゃぎながら言う。
「この鏡の向こうには本当のことが見えるんだって」
「ふーん……」
 大王は少しだけ興味深そうに鏡を覗き込んだ。
「本当のこと、ねぇ?」
「ね、すごいでしょ?」
「まぁ、本当だとしたら確かにすごいな」
「えへへー」
 カービィは嬉しそうに笑って、まじまじと鏡を見る。
「どんなことが映るんだろう……」
「ただの伝承かも知れねーだろ」
「そんなことないもーん」
 そのとき、鏡の中の像がゆがんだ。
「あっ!」
 カービィはまじまじと鏡を覗き込む。
「虹だ! 虹が見えるよ!」
「は?」
 大王は首をかしげてから、カービィが覗き込んでいる鏡に目をやった。
 確かにそこには、虹を描きながら天空を駆けるカービィが映っている。
「……なんだこりゃ」
「きっとこれから起こることだよ。うわぁ、すごいなぁ! 僕ってば虹を描いてるよ!」
 カービィは楽しそうに言う。
「ね、デデデ! もしさ、これが本当になったら、僕が描く虹、見てよね!」
「覚えてたらな」
 大王は素っ気無く答える。
「絶対だからね!」
 カービィはそう言って、にっこりと微笑んだ。

 

「……あの映像は、嘘だったの?」
 虹を見ようと約束した者が、虹を消してしまうだなんて。
 サイドテーブルの上には1つの写真立て。城の人々と、カービィと、その友人が並んで映っている。
 さらにその隣には古びた鏡――真実の鏡が裏返して置かれている。
「――ッ!」
 カービィは思わず真実の鏡に手をかけた。
 発作的にその鏡を床に叩きつけたくなるような衝動に駆られた。
「嘘吐き!」
 その時だった。
 鏡が、まばゆい光を放った。
「……え?」
 カービィは思わず鏡を覗き込む。
 映っているのは夜の映像だ。
 城に、『何か』が入り込んでいく映像だった。
『何か』は大王の元へと向かう。
 大王が何かを叫んでいるが、声までは分からない。
 次の瞬間、『何か』は大王に襲い掛かり、そこで映像は途切れた。
「……何これ」
 カービィは、目の前の映像を必死に理解しようとした。
「もしかして、デデデの身に何かあったの……?」
 そう呟いたと同時に、家の外からリックたちの叫び声が聞こえた。
「……ッ! 今度は何?」
 カービィは慌てて家の外へと飛び出す。
 しかし、リックたちの姿は何処にもなかった。
「何が起こってるの……?」
 カービィが小さく呟くと、また鏡が光った。
 鏡の向こうに大きな目が見えた。
 赤く光る一つ目だった。
 一つ目は鏡の向こうから、じっとカービィを見ていた。
「君が……?」
 カービィがたずねると、鏡の向こうで目玉が笑ったような気がした。
「……」
 目の前には城が見える。
 真実を確認するためには、否が応でもあの城へ行くしかないだろう。
 それがたとえ、どんなに残酷なものだったとしても。
 カービィは覚悟を決め、鏡を再び元の場所へと戻し、ゆっくりと家を出た。

 これが、虹の島々をめぐる、長い長い冒険の始まりだった。

 

<『星のカービィ2』に続く>

『スーパーデラックス』から『星のカービィ2』への移行を捏造。
ちなみにタイトルは『レイトン教授と悪魔の箱』のワンシーンから拝借したのですが
このタイトルだけでぴんと来た方は同士です。

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