<ぽかぽかハート>

 闇ばかりの空間で生まれた僕が初めて光を目にしたのは、当時のマスターだったゼロの命令で外界を偵察に行ったときでした。確かにゼロの言うように、光は僕らの力を半減させる物に他ならず、光の中では常に体が重く感じられ、満足に動くことすらできませんでした。
 それでも僕はどういうわけか、忌むべき存在であるはずの光に憧れてしまったのです。
 偵察から戻ってきた僕は光を侵食すべきなのか否か、今一度ゼロに問いかけました。すると途端に僕は麻袋に押し込められ、外界に放り出されてしまったのです。
 そういうわけで、僕は数日間を麻袋の中で過ごすことになったわけなのですが、何故なのでしょう、今までは闇ばかりの空間にいても何とも思わなかったというのに、麻袋の中で過ごしている間は、偵察中に垣間見た光が恋しくてたまらなかったのです。光の中に出たところで、僕に利点は一つも無いと言うのに。
 僕が意せずして光と再び出会ったのは、麻袋の中で数日が経過してからでした。麻袋の中では時間が分からないので、もしかするともっと短い時間か、長い時間かもしれません。とにかく僕は突然、麻袋の中から光の下へと引きずり出されたのです。
「大丈夫?」
 僕が押し込められていた麻袋を開いたのは、桃色の球体――カービィでした。この星の守り手という危険因子として、僕は彼の存在を知っていましたが、当然彼は僕を知りません。彼は無邪気に無防備に、僕を心配そうな顔で見つめて、もう一度
「大丈夫?」
 と聞いてきたのです。僕は黙ってうなずきました。
「ここいらじゃ見ない顔だけれど、君もダークマターに捕まったの? それでこんなところに閉じ込められてたの?」
 カービィは僕に問いかけます。僕は黙って頭を横に振りました。
「じゃあ、どうして?」
「……」
 その質問に、僕は答えることが出来ませんでした。
「答えたくないの?」
 今度はうなずきました。
「帰り道、分かる?」
 この質問に僕はしばらく考えました。ハイパーゾーンへ帰ることは簡単でしょうが、帰ったところで僕の居場所など、今更無いように思えたのです。しばらく考えて、僕は首を横に振りました。
「じゃあ、僕の家においでよ」
 そう言ってカービィは微笑みました。
「僕はカービィ。君は?」
「……グーイ」
 僕は短く答えました。
「よろしく、グーイ」
 それから僕はカービィの家でご厄介になることになりました。素性のよく分からない僕を、カービィは快く受け入れてくれました。僕の中に何かやわらかくて温かいものが広がったような気がしたのですが、それをどう表現するのかを当時の僕は知りませんでした。
 やがて、同胞が倒されたという話を耳にしました。その時僕は少しだけ寒気を感じてしまいました。もしも僕がダークマターだとカービィに知られてしまったらどうしようと思ったのです。
 それから何事も無い穏やかな日々が流れて、こんな日がずっと続けばいいのにと僕は少し怯えながら、ただ一心に願いました。けれども現実はそう甘くは無く、ある夜僕は自分の体の異変に気付きました。体は少し地面から浮いていて、ダークマター特有の『球』が自分の周りに浮いているのです。僕の中の闇が覚醒した証でした。
「グーイ、どうしたの?」
 その姿を見て、カービィは開口一番にそう言いました。
「僕はダークマターです」
 これ以上押し隠すのは無理と判断した僕は潔く白状しました。カービィは目をぱちくりさせて僕を見ます。相当驚いたのでしょう。
「どうして今まで黙ってたの?」
 当然の質問が返ってきました。僕は彼を騙していたことになるのですから。もしも彼に怒られても文句は言えません。
「嫌われると思ったからです」
 なので僕は正直に言いました。かつての同胞が聞いたら笑われるかもしれませんが、僕には本来ならば敵であるはずのカービィに嫌われることがとても辛いことのように思えたのです。
「……グーイ」
 カービィは言葉を詰まらせます。その顔はなんだか機嫌の悪いように思えました。
「僕にはそれが怖かったのです。あなたに嫌われるのが。だから、言えませんでした」
 僕はそれだけ言ってカービィに頭を下げます。申し訳の無い気持ちでいっぱいでした。
「ダークマターでも、なんでも、関係無いよ」
 カービィの口から出てきたのは、意外なひとことでした。
「え?」
 思わず僕は頓狂な声をあげてしまいました。
「どうして言ってくれなかったの? 隠し事されてたなんて、ちょっとショックだよ。 そりゃあ、内容が内容だけどさぁ」
 カービィが怒っていたのは僕がダークマターだったことではなく、僕が隠し事をしていたというその点でだったのです。
「どれが何だろうと、グーイはグーイだもん。真っ黒で真ん丸い僕の友達」
 そう言ってカービィはにっこりと微笑みます。また僕の心の中にやわらかくて温かいものが広がりました。
「カービィ……」
 そう一言呟くと、僕の目から涙が溢れました。どういうわけか止まりそうにありません。
「おかしいですね。どうして、涙が」
 慌てて僕は涙をぬぐいます。しかしぬぐっても、ぬぐっても、涙は一向に止まる気配がありません。やわらかくて温かい感情で、僕の心は張り裂けそうでした。
「ああ……以前あなたに助けられた時も、こんな感情になりました」
 涙で言葉が上手く出ませんでした。
「あの時はこの感情に当てはまる表現が思いつかなかったんですけど、今なら分かります」
 僕はおそらく助けて欲しかったのです。あの冷たくて深い闇の中から、この暖かな光の元へ。
「ありがとう」
 それはこの心に広がった、やわらかで温かい感情の名前でした。

 

<FIN>


MLお題小説、テーマは『あったか』
こういう『温かさ』はちょっとズルっぽいような気がしないでもありません。すみません反省してます。
プロトタイプではデデの旦那が出しゃばっていました。
さすがにまずいだろうということで、全面書き直しをしたので、コンセプトは一緒なのに、全然違う内容に仕上がったという摩訶不思議な小説です。
私の書く短編には珍しく、デデの旦那がまったく登場していません。
全編グーイの一人称視点というのは新鮮ですが、同時に書きにくかったです;
ちなみにグーイが敬語調なのは『3』の説明書の受け売りだったりします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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